1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/01(水) 21:30:58.88 ID:AtNBR4o3O
倫太郎「お、おい!お前たち!」 

ラボで暇を持て余していた紅莉栖とダルに声をかけると、迷惑そうな顔を向けてくる。 
“今度は何事か” 
表情がそう語っていた。 

倫太郎「お前たち、ポカーーンとしている場合じゃないぞ!」 

至  「オカリン、今度は何なんだってんだよぅ」 

紅莉栖「またどうせ、くだらない事でも思いついたんでしょ」 

倫太郎「そうではない! ……ダルよ、今日は一体何日だ?」 

至  「はあ?」


3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/01(水) 21:32:34.61 ID:AtNBR4o3O
至  「今日は2月1日だろ?」

倫太郎「そう、2月1日だ。すなわち今日この日は、まゆりの誕生日だったんだよ!!」

紅莉栖「なっ!?」

至  「なんだってー!?」

二人から、間抜けな声が上がった。

俺とした事が、うっかりしていたな……。

まさか、まゆりの誕生日を忘れているなんて……!

4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/01(水) 21:33:19.48 ID:uXoiDFGc0
本人が一番忘れてそうだな

5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/01(水) 21:35:30.15 ID:AtNBR4o3O
至  「つーか、よく知ってるな、オカリン」

倫太郎「え?」

ようやくエロゲのセーブが終わったのか、ダルが開発室から出てきた。

至  「いや、まゆ氏の誕生日とか。僕は知らなかったわけだが」

倫太郎「ああ。 あいつは俺の幼なじみだからな……」

まゆりとは、家族ぐるみでの長年の付き合いだ。

知っていて当然である。

ダルは知らなかったと言ったが、まゆりは元々、自分の誕生日を自分から言い出すような子ではない。

だから、ラボメンの誰もが知らなくても、それはしょうがないといえばしょうがないのかもしれない。

だが、それで祝ってやれなかったとなったら、俺としては悔しい事この上なかった。

6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/01(水) 21:38:09.35 ID:AtNBR4o3O
紅莉栖「へえ、じゃあ私の誕生日は?」

倫太郎「え?」

突然、黙って聞いていた紅莉栖が、横から妙な問い掛けをしてきた。

何でそんな事を今聞く?

まさか、ラボの創設者である俺の器を試しているのか?

そういうのはやめてほしい。

しかし、紅莉栖は依然として期待のこもった目で見つめてきている。

倫太郎「………」

紅莉栖「………」



7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/01(水) 21:40:25.09 ID:AtNBR4o3O
眉間をつまみ、回らない頭で必死に記憶を探る。

えーと、確か……あ、そうだそうだ。

思い出したぞ。

倫太郎「あの、アレだ。 7月だろ?」

紅莉栖「おお」

一瞬、紅莉栖の目が輝いた。

よし。正解のようだな。

さて、早速まゆりの誕生会を―――

紅莉栖「それで?」

倫太郎「へ?」

紅莉栖「何日?」

倫太郎「………」

10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/01(水) 21:42:20.70 ID:AtNBR4o3O
紅莉栖「ねえ、何日?」

倫太郎「………」

目をサッと逸らすと、紅莉栖の視線が追いかけてくる。

なんだこれは、尋問か?

俺は、完全に言葉に詰まってしまった。

ああもう、今はそれどころでは無いというのに!

至  「……まさかとは思うけど、答えられないん?」

ダルが、わざとらしく意地悪な言い方をしてくる。

こいつはまた、余計な事を。

……そのまさかだよ。

俺はダルに、潔く頷いてやった。

12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/01(水) 21:44:24.32 ID:AtNBR4o3O
紅莉栖「そ、そんな……」

途端に紅莉栖は悲しそうな顔になり、がっくりと肩を落とした。

今そんな事を聞いてくる方が悪いんだろうが!

俺は思わず、心の中で舌打ちをしていた。

紅莉栖は、完全にうなだれてしまったままで。

ダルはそれを慰めようと、バカな事を言い出し、空回りしていて。

俺はそんな空気に耐えきれず、各自まゆりの誕生会準備の指示を飛ばすと、ひとまず解散を宣言した。


13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/01(水) 21:45:57.75 ID:AtNBR4o3O
倫太郎「ルカ子!」

俺は柳林神社入り口の階段を駆け下りると、
社務所のすぐ側で今日も今日とて、健気に掃き掃除をしていたルカ子に声をかけた。

るか 「あ、凶真さん。こんにちは」

ルカ子はこちらに気付き、ペコリと会釈してくる。

ここまで走って来たので、肺が過度に酸素を要求してくるが、俺は息が整うのを待たずに続けた。

倫太郎「ルカ子、はあっ、メール、見たか?」

るか 「メ、メール、ですか? すみません、ケータイは部屋に置いてきちゃって……」

俺はラボを出る前に、ルカ子と萌郁にメールを出していた。

もちろん、まゆりの誕生会のためだ。

倫太郎「ならいい。 はあ、お前、今日が、まゆりの誕生日だと、知っていたか?」

14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/01(水) 21:47:33.05 ID:AtNBR4o3O
るか 「え?ええっ!? そうだったんですか? そ、それは知りませんでした……」

倫太郎「……っ」

まさか、ルカ子も知らないなんて。

胸が、針で刺されたような痛みを覚える。

まゆりのやつ、他人を祝う時は本人以上に喜んでやってるくせに、自分の事となると控えめすぎるだろ。

それに誕生日くらい、せめてルカ子には言えばいいのに……。

ルカ子も、知らなかった事にショックだったようだ。

倫太郎「……それで、ルカ子よ。お前に頼みがあるんだが、聞いてくれるか?」

るか 「あ、はい、なんでしょうか。 ボクに出来る事なら何でもします」

倫太郎「よし、それじゃあ―――」

18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/01(水) 21:50:57.64 ID:AtNBR4o3O
俺はルカ子に要件を簡潔に伝えると、すぐに踵を返した。

次は、メイクイーンだ。

フェイリス「ハニャ! 凶真ったら、そんな大事なこと忘れてたのかニャ!」

倫太郎「ちょっ、声がデカい……! まゆりに気付かれるだろ……」

フェイリス「あぅ……ごめんニャ」

何とか店の外からフェイリスを呼び出した俺は、少し階段を降りたところで彼女に相談を持ち掛けていた。

倫太郎「それで……頼めるか?」

フェイリス「朝飯前だニャ。それに、他ならぬ凶真の頼みだからニャン」

倫太郎「助かる。急に済まないな」

フェイリス「マユシィはフェイリスの大切な友達でもあるニャン」

フェイリス「だから、むしろ嬉しいニャ」

19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/01(水) 21:52:18.77 ID:AtNBR4o3O
フェイリスは、チラリと店内のまゆりを見やり、ニッと小悪魔的な笑みを浮かべて、

フェイリス「マユシィがバイトを終えた時に引き止めて、連絡があるまで相手してればいいんだニャン?」

倫太郎「そういう事だ。その後は、お前も一緒に来てくれ。ラボで待ってる」

フェイリス「がってんしょうちニャン♪」

ガッツポーズを作ってみせると、フェイリスは店の中に戻って行った。

さて、俺の方はこんなところか。

一旦、ラボに戻ろう。

24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/01(水) 21:55:41.76 ID:AtNBR4o3O
倫太郎「おお、やっているな。かなり進んでるんじゃないか?」

至  「ま、やる事って言っても、大した事なかったからな」

ラボに入ると、ダルが汗を拭いながら脚立から降りているところだった。

倫太郎「いや、ここまでするのは大変だっただろう。ご苦労」

ラボはすっかり様変わりして、黒幕で全ての壁が覆われている。

昼間だというのに、ここだけかなり薄暗い。

電気を消せば、真っ暗闇だろう。

短時間のうちに、俺の注文通りにここまで用意するとは、さすがだ。

差し入れのコーラを手渡すと、ダルはカロリー0のやつでないと文句を言ってくるが、
そこは華麗にスルーしてやった。


28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/01(水) 21:57:36.11 ID:AtNBR4o3O
そして―――

紅莉栖はというと、先ほどの事を引きずっているのか沈んだ顔で。

黙々と、プラスチックのボウルに穴を空けていた。

端から見れば、病的にいじけているようにしか見えない。

倫太郎「紅莉栖」

その背中に声をかけると、紅莉栖はビクリと反応した。

倫太郎「さっきはすまなかったな」

紅莉栖「………」

紅莉栖「べ、別に? 気にしてないけど」

と、しばらく間を置いて返事がかえってきた。

声色は明らかに不機嫌だ。顔は見えなくても想像出来る。

……そこまでへそを曲げなくてもいいのに。

30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/01(水) 22:00:41.69 ID:AtNBR4o3O
紅莉栖「……大体、あんたなんかに誕生日を覚えててもらわなくても、ちっとも―――」

倫太郎「25日だ」

言いながら、肩越しにドクペを差し出す。

紅莉栖「えっ?」

倫太郎「7月25日、だ」

紅莉栖「な、なによ急に……っ」

倫太郎「済まなかった。さっきは気が動転していたからな」

倫太郎「……本来なら忘れる事は無かったんだが。 許してくれ」

紅莉栖「……っ」

ドクペを受け取ると、紅莉栖は耳を赤くして、俯いて。

俺はその隣に、そっと腰を下ろした。

34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/01(水) 22:02:48.22 ID:AtNBR4o3O
そうだ、忘れるはずがない。

ラボメンの誕生日を。

紅莉栖の、誕生日を。

倫太郎「さて、ここからはひたすら根気の作業だ。もうひと頑張りしようじゃないか」

紅莉栖「う、うん……」

紅莉栖に代わって、俺がボウルに穴を空け。

彼女は本を片手に、正確に穴を空けるべき位置をマークする。

そうして、ラボには静かな時間が過ぎていった。

途中からダルのエロゲの音が聞こえてきた時には、さすがにキレたが。

36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/01(水) 22:04:35.10 ID:AtNBR4o3O
時刻は18時を回っていた。

あれから、萌郁がジューシーからあげ他、各種パーティー料理の調達から戻り、
ルカ子も俺が注文した以上のケーキを仕上げて持ってきた。

会場の設営も、ダルが頑張ってくれたおかげで完璧に近い。

ラボはすっかり、まゆりの誕生日を祝う宴会、及び開発評議会の様相を呈している。

まさか、1日の内にここまで出来るとは思っていなかったので、俺は正直驚いた。

38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/01(水) 22:06:54.81 ID:AtNBR4o3O
倫太郎「俺だ。……ああ、いつでもいける……ククク」

俺はケータイを耳に添えながら、ラボメンたちに位置に着くよう指示を飛ばした。

倫太郎「……わかった。後は頼んだぞ。エル・プサイ―――」

…………。

………。

倫太郎「……切られた」

皆に苦笑いを見せて、ケータイをしまう。

紅莉栖「バカやってないで、早く明かりを消せ」

紅莉栖「まゆり達が来ちゃうでしょ」

倫太郎「う、うむ……」

こいつは相変わらず手厳しいな。

ただの茶目っ気だったのに。

ブツブツと文句を呟きながら照明のスイッチを切ると、ラボは真っ暗闇に包まれた。

40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/01(水) 22:10:07.48 ID:AtNBR4o3O
まさに漆黒の空間。

冬の寒さも相まって、雰囲気もなかなかに出ている。

闇の中から、ラボメンたちの息をのむ気配がした。

緊張感が漂う。

俺も、サプライズパーティーなんかやった事ないから、かなり緊張していた。

この静寂のなか、心臓の高鳴りだけが耳に届く。

それからしばらくして、階段を上ってくる二人分の足音が聞こえた。

フェイリスがまゆりを連れてやってきたのだ。

41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/01(水) 22:12:13.27 ID:AtNBR4o3O
ドアが開かれ、外の光が少しだけ差し込んでくる。

まゆり「わっ、なにこれ!真っ暗だよぉ」

まゆりの声だ。

フェイリス「マユシィ、ちょっとごめんニャ」

続いて、フェイリスの声。

まゆり「えっ? わわっ!」

フェイリスがまゆりの背中を軽く押して、そのままラボ内に押し込めると後ろ手にドアを閉めた。

再び、空間を漆黒が支配する。

視界が、黒によって完全に塗りつぶされる。

まゆりから伝わってくるのは、わたわたと動揺する気配。

まゆり「フェリスちゃん? ど、どこにいるのかな? 真っ暗でなんにも見えないよー?」

43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/01(水) 22:14:18.49 ID:AtNBR4o3O
よし、今だ―――

倫太郎「紅莉栖!」

紅莉栖「おk。いくわよ……」

紅莉栖が、手作りプラネタリウムのスイッチを入れる音が聞こえると。

俺たちが空けた、穴だらけのボウルからは微かな光が漏れて、

まゆり「………ぁ」

途端に、まゆりの影が、大パノラマの宇宙に浮かんだ。

壁のスクリーンに映し出された星たちが、キラキラと輝いて。

まゆりの気配は小さく息をついて、キョロキョロと満点の星空を見渡している。

……実験は、成功だ。

俺たちから、まゆりへ贈る誕生日プレゼントはこの星空だった。

未来ガジェットと呼ぶには、あまりに捻りのない、ありきたりなプレゼントではあるが。

さっきから、彼女の感嘆の声を聞いている限りでは、間違いではなかったようだ。

44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/01(水) 22:15:44.15 ID:AtNBR4o3O
そして、まゆりはゆっくりと。

星空へと向けて、手を伸ばす。

まるで、今にも空へと飛び立って行って。

その先にある、星々に握手を求めるかのように。

倫太郎「………」

宇宙空間にぽっかりと空いた、空に手を伸ばすまゆりのシルエットは。

とても、凜としていて。

それでいて、儚げで。

あまりに美しく思えて。

俺は。

しばらくの間、そんな光景に、ただ見とれていた。

45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/01(水) 22:16:49.64 ID:AtNBR4o3O
紅莉栖「お誕生日おめでとう、まゆり」

至  「まゆ氏、おめでとう、うへへ」

るか 「おめでとう、まゆりちゃん」

フェイリス「マユシィ、驚かせてゴメンニャ! おめでとう」

萌郁 「椎名さん、おめでとう」

まゆり「うん……」

まゆり「みんな、ありがとう」

暗闇でよく見えないが。

そう言ったまゆりの顔は、きっといつものように、微笑んでいるはずだ。

46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/01(水) 22:18:08.88 ID:AtNBR4o3O
倫太郎「まゆり」

まゆり「あ、オカリン……」

どうやら俺が最後になってしまったらしい。

なんとなく照れくさくなって、俺は、頭を掻きながら。

まゆりに向けて、祝福の言葉を贈った―――



おわり。

47 : 忍法帖【Lv=40,xxxPT】 :2012/02/01(水) 22:20:35.40 ID:RQL/6dk20
( ;∀;) イイハナシダナー

48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/01(水) 22:21:56.35 ID:oPxdYooZ0
乙。

50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/01(水) 22:22:24.75 ID:somTFMwN0
えっへへー、乙なのです

54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2012/02/01(水) 22:22:56.31 ID:l0fSq0yO0
いい話だニャン
乙ニャン